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東京高等裁判所 昭和39年(ネ)1480号 判決 1965年6月10日

理由

控訴人主張の事実中、控訴会社が昭和三七年一〇月頃から昭和三八年一月二〇日頃までの間、被控訴人谷津クニに対し河合ピアノK8型四台を代金八七万円で売渡したところ、同被控訴人が内金八万二千円を支払つたのみで、残金七八万八千円の支払をしなかつたこと、昭和三八年三月五日控訴会社は同被控訴人との間において右売掛代金残債務を貸金債務に改め(準消費貸借契約)、同被控訴人がこれを分割して、同年同月から昭和四〇年三月まで毎月末日限り一回金三万二千円宛(但し最終月は金二万円)を東京都中央区銀座一丁目一〇番地にある控訴会社関東地方本部へ持参または送金して支払うべく、右割賦金の支払を三回以上怠つた場合には、期限の利益を失う旨の約定をしたこと並びに茂呂茂三郎(本件訴状表示の被告)が昭和三八年七月一四日死亡し、妻たる被控訴人茂呂ハルおよび子たるその余の被控訴人が相続により右茂呂茂三郎の権利義務を承継したことはいずれも当事者間に争がない。

而して(証拠)を綜合すれば、次の事実が認められる。即ち、

被控訴人谷津クニが控訴会社から買受けたピアノおよびオルガンの代金を支払わなかつたことから、これが告訴沙汰になりかねない情勢になつたので、同被控訴人は昭和三八年一月終り頃か二月初頃訴外渡辺武徳を代理人として控訴会社と折衝を開始した。そして一部の買受物件が控訴会社に返品されたが、返品できなかつた本件ピアノ四台の代金七八万八千円について被控訴人谷津クニが当事者間に争のない前記割賦弁済契約をするについては、控訴会社では群馬営業所長である浜本忠雄を通じて連帯債務者を立てるとともに確実な担保物件の提供方を要求した。当時被控訴人谷津クニの連帯債務者となることを承諾する者はほかになかつたので、控訴会社では同被控訴人の実父たる茂呂茂三郎がその連帯債務者となることを要求した。そこでやむなく茂呂茂三郎は娘である被控訴人谷津クニのために、自己所有の畑三畝四歩に抵当権を設定するほか自ら連帯債務者となることを承諾し、その一切を前記渡辺武徳に委せた。よつて渡辺武徳はその趣旨を記載した「抵当権設定契約書」と題する書面(甲第三号証)をしたためた上、茂呂茂三郎の承諾を得てこれに同人の氏名を代署し、かつ、同人の実印を押捺し、また被控訴人谷津クニの署名押印を得た上、同年三月五日前記担保物件の権利証、茂呂茂三郎の印鑑証明書等とともにこれを前記浜本忠雄に手交し、茂呂茂三郎の代理人として、同人が前記被控訴人の連帯債務者兼担保提供者となることを承諾した。しかし右書類の中にはその抵当権設定登記に必要な委任状がなかつたので、前記浜本忠雄は同月中旬頃茂呂茂三郎方を訪れて右委任状の交付を求めたところ、同人においてその実印を手許に所持していなかつたため、右委任状を貰うことができなかつたが、その際同人は右浜本忠雄に対し、連帯債務者として被控訴人谷津クニの前記債務を履行する旨を告げ、右連帯債務者たることを確認した。

以上の事実が認められる。原審並びに当審証人渡辺武徳の証言中右認定に反する部分は前掲各証拠と対照して措信し難く、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。尤も前記抵当権設定契約書(甲第三号証)には茂呂茂三郎の署名部分の肩書には単に「担保提供者」とあるのみで連帯債務者たる肩書がなく、またその内容においても連帯債務負担に関する条項の記載を欠きこの種契約書としては正確を欠くものがあるが、同書面の当事者の表示中茂呂茂三郎の肩書には明らかに「連帯債務者及担保提供者」と記載されておるので、それによれば同人が連帯債務者として被控訴人谷津クニの前記割賦弁済に関する債務について連帯してその責に任ずる旨を約した事実を窺うことができる。しかも当審証人渡辺武徳は、甲第三号証は茂呂茂三郎が連帯債務者になる前提の下に書いたものであつて、連帯債務者となることを承諾すれば甲第三号証と同一の書面ができた訳である旨を述べているのであつて、法律家でない同証人の書いた同号証に前記のような記載の不備があるからといつて、これをもつて直ちに茂呂茂三郎が単に担保提供者となることのみを承諾し、連帯債務者となることはこれを承諾しなかつたものとはなし難い。

而して主債務者たる被控訴人谷津クニおよび連帯債務者たる茂呂茂三郎において前示約旨に従いその割賦金を支払つたとの主張並びに証拠のない本件においては、当初から三回分を遅滞したものとして特約に基き、昭和三八年五月末日の経過により、当然その割賦弁済の利益を失い、全額七八万八千円につき遅滞の責に任ずるに至つたものといわなければならない。

然らば被控訴人谷津クニは主債務者として控訴人に対し、前記債務全額金七八万八千円およびこれに対する訴状送達の翌日たること記録上明白な昭和三八年一一月五日からその支払済みに至るまで年五分の割合による法定遅延損害金の支払義務あるとともに、その余の被控訴人らは連帯債務者茂呂茂三郎の承継人として被控訴人谷津クニと連帯して控訴人に対し、被控訴人茂呂ハルにおいてその相続分たる三分の一にあたる金二六万二六六六円、被控訴人白居ハツ子、同茂呂徳太郎、白居シマにおいてその相続分たる六分の一(茂呂茂三郎の子は被控訴人谷津クニを含めて四人である。)にあたる金一三万一三三三円およびいずれもこれに対する前記訴状送達の翌日たる昭和三八年一一月五日からその支払済みに至るまで年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務あることが明らかであるから、控訴人の右請求を正当として認容すべきものとする。

なお、控訴人の抵当権設定登記請求部分については原審において敗訴した被控訴人らから不服の申立がないからこれについては判断の必要がない。

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